HOME | 過去のお知らせ・イベント | お知らせ | 創立120周年を迎えて 袴田 潤一

建学の精神

 
 
逗子開成学園 元校長
松坡文庫研究会代表
 
 袴田 潤一

 

 逗子開成創立120年、おめでとうございます。逗子開成の教育に微涓をおくった私自身としても、創立120年を嬉しく思います。こうした節目にこそ、建学の精神を改めて心に刻むことが今後の50年、100年の逗子開成にとって重要なことだと思います。
 校名のもとになっている「開物成務」が建学の精神であると語られることがあります。しかし、それは正確ではありません。本校は「私立東京開成中学校」の分校として創設されましたが、「開物成務」は東京府立時代の校名改称(旧名は共立学校)の精神であり、逗子開成の建学の精神は「第二開成中学校創設趣旨」を考えなければなりません。創設趣旨の論理は次のようなものです。①心身の健全な人間を育てるには中学期の教育が最も重要である。②その時期は外誘にかかり易いので、よい環境(「自然ト人トノ善感化ヲ受ケシムル」、つまり豊かな自然に恵まれ、社会の弊毒から離れている)での教育が必要である。③逗子は外誘の多い都市から距っており、自然環境にも恵まれている。①は東京開成での教育の充実により達成されます。また、③については、横須賀鎮守府の将校の子弟の教育の便宜にと海軍からの要請があったとも言われます。しかし、教育者としての内的な動機があった筈で、それは②に収斂します。創設趣旨から読み取れる本校の建学の精神は「環境に恵まれた地で青少年の教育を行う」ということに尽きます。
 ところで、田辺先生に「苦學」と題された論説があり(府立開成中学校『校友會雜誌』第十九号pp.1-4 1899年11月)、そこには前記②を補うことが述べられています。「過分の金銭を懐にして誘惑多き繁華の都下」に出入すれば放蕩の挙句に身を持ち崩してしまう。「金力万能の時代」ではあるが、苦学(の精神)が大切であると言うのです。また、学問に優れるのみならず、志操堅固であること(「成務」に繋がることです)が有用な人物の条件で、堅固な志操は「自ら守る」という鋳錬により育まれるともあります。都会から離れた土地での青少年の知育・徳育の重要性が説かれているのです。
 若者が友人や師からの善い感化を受け、直向きに学問に励む場としての逗子開成がますます発展されることを祈っています。
 
 ※『校友會雜誌』の閲覧について開成学園のご協力をいただきました。心より感謝いたします。
 

 ↑上段写真は『本校創立三十周年記念誌』(1932)に掲載された田辺先生の肖像写真